VOL8.グルマンの先に咲く花 ─ MAXILLARIA TENUIFOLIA調香の裏側。

「フローラルグルマン」。
この言葉に、あなたはどんな香りを思い浮かべるでしょうか。
ジャスミンやチュベローズの華やかさに、バニラやココナッツ、ピスタチオの甘さが重なる、官能的で贅沢な香り──それは、確かに美しい組み合わせです。
けれど私たちは、その常識の先にある、まだ誰も表現してこなかった香りの領域に足を踏み入れました。
私が出会ったのは、「ココナッツオーキッド」として知られるMAXILLARIA TENUIFOLIAという蘭。
その花が放つ芳香は、単なる南国の甘さではなく、ココナッツやバニラ、焦がしたキャラメルのような甘さと、どこか“生”の気配を感じさせる、瑞々しさに満ちていました。
その香りを再現するために選ばれたのは、ミルク、グァバ、マンゴー、ココナッツ、焦がしキャラメル、そしてバニラ。
途中、調香を進めるなかで、私はいつの間にか“大切な何か”を見落としかけていました。最後に何かが足りないと。
香りを組み立てることに夢中になり、気づけば、ただの甘く美しい“フローラルグルマン”を作ろうとしていたのです。
けれどふと、自分が初めて**MAXILLARIA TENUIFOLIA(ココナッツオーキッド)**の香りに出会ったときの感動を思い返しました。
あれは確かに甘く官能的な香りでした。けれど同時にそこには、確かに“生の花”としての息づかいがあったのです。
甘さの中にある、生花のリアルな気配。
自分は「植物の香りを作っていたんだ」と気がついたのです。
そしてその“生っぽさ”を取り戻すために、私はイランイラン・アブソリュートにたどり着きました。
IFRAの規制で使える量はほんのわずか。それでも、この香料はわずかな滴だけで香りに命を吹き込んでくれたのです。
ごく微量しか使うことのできないこの香料を、あえて“最小限”にとどめることで、花そのものが持つ“生”の質感──いわば、一輪の花が今まさに呼吸しているようなリアリティを、香りに宿らせました。
トップではミルキーでトロピカルなフルーツと共にエキゾチックなイランイランが甘美に立ち上がりながらも、次第に肌に溶け込むように馴染みます。
焦がしたキャラメルのニュアンスに繋いだオークウッドが深みを出しながらもフローラルと馴染むムスクがミルクの香りと共に、静かに、長く、優雅に続いていきます。
ただのフローラルグルマンな香りではないMAXILLARIA TENUIFOLIA
新しい香りの旅を体験してください。